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分娩室まで付き添った夫の体験談(後編)【帝王切開=立ち会いできず】

投稿日:2019年2月22日 更新日:

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帝王切開に切り替えると決まってからが早かった。
一つ一つ何をしているのか分からないほど、たくさんの人が一つの目的に向かって動き出していた。

何かの準備をするために僕はいったん外へ出て、次に帰ってきたときには先生が手術に当たっての説明を始めていた。

「お腹の皮膚は横に切りますか縦に切りますか、麻酔は腰椎に打ちます、そのとき髄液が漏れて頭痛がするので今日はずっと頭を上げないでください、でもなるべくベッドから早く離れた方がいいので明日から運動してくださいね、エコノミークラス症候群になる可能性があります、それを防ぐために圧のかかる靴下を履いてもらいますね、出血が多かった場合は輸血します、血液製剤を使う可能性もあります、その場合B型肝炎やC型肝炎に感染する可能性もあります」……などなど。

覚えられるかー! ヽ(`Д´)ノ

まぁ、説明がなかったらなかったでいろいろと問題なのは分かるから、仕方のないことなんだけども。
痛みに苦悶の表情を浮かべる妊婦、淡々と事務的に書類を読み上げる医者、その傍らで一緒に説明を聞く夫。
なんてシュールな絵面だろう。

5枚くらいある説明書を淡々と読み上げ、4枚(だったと思う)の同意書にサインを求められた。
僕も同伴者と書類の受取人ということでサイン。
奥さんは陣痛の合間を縫って、なんとかサインとアレルギーなどの確認事項を埋めていった。

全ての準備が整い、いよいよ手術室へ移動する。
奥さんは分娩台からストレッチャーに乗せられることになったので、僕は家族控室へ。

その頃には僕の両親も来ていて、控室でお義母さんと4人で待つことになった。

しばらくしてストレッチャーに乗った奥さんが控室の前に運ばれてきた。
いかにも手術前の姿。
ドラマとか映画とかでよく見るやつだ。

手術前の最後の面会になる。
何を話しただろう。
お義母さんが「これまでよく頑張ったね……」と涙を流していたことはよく覚えている。

後は先生たちに託すしかない。
エレベーターに乗るのを見送って、控室へ戻る。

手術時間は30分くらいらしい。
これまでのことを考えたら、一瞬と言えるほどの短さだ。
だけど、待つだけの30分は想像以上に長かった。

僕の父親は「もっと早く(帝王切開に切り替える)判断はできなかったんか」と何度も訊いてきた。
その度に何度も「だーかーらー」と、病院の方針や帝王切開のリスクについて説明をする。
面倒くさい。

結果論ではなんとでも言える。
これから同じことを言ってくる人も居るだろう。
その度に同じ説明をしないといけないのか。
本当に面倒くさい。

僕はただ静かに待っていたかった。
天井の一点を見上げながら、奥さんと赤ちゃんの無事を祈り続ける。

エレベーターが到着した音や、ガラガラという車輪の音が聞こえる度に何度も身構えた。
そして、何度もがっかりさせられた。
冷静に考えれば明らかにストレッチャーではない音でも、過敏に反応してしまう。
落ち着かない。
悪い想像が浮かびそうになると、それを振り払うことだけに集中していた。

40分くらい経った頃、部屋の外から僕の名前が呼ばれた。
急いで廊下に出ると、保育器に入っている赤ちゃんだけがそこに居た。
奥さんの姿はない。
僕が不安そうな顔になったのを見たのか、付き添いの先生が「奥さんはあと30分くらいしたら戻ってきますよ」と言ってくれた。
ホッとはしたものの、まだ気は抜けない。

ただ、赤ちゃんは無条件でかわいい。
素直にそう思えた。良かった。
ひょっとしたら赤ちゃんを目の前にしても、大して自分の感情は動かないかも知れない。
そんな不安もあったけど、完全な杞憂だった。
自分でも不思議なくらい自然と顔がほころんで、というかニヤけて、赤ちゃんを見つめていた。

保育器の窓から赤ちゃんに触れる。
柔らかい。
目も鼻も口も手も足も、すべてが小さい。
大の大人が4人もまとめて自分に迫ってきているというのに、落ち着いた様子でこちらを見ていた。
目は意外と開いている。
黒目が大きい。
成長したらどんな顔になるんだろうか。

結局僕は2枚しか写真が撮れなかった。
両親やお義母さんの方が多く撮っている。
こういうときの突進力は見習った方がいいかも知れない。

両親が持っていたカメラは、先生に預けることに。
同じようなことがあるんだろう。
慣れた手付きでいろんな角度から撮ってくれた。

ひとしきり写真を撮り終わると、赤ちゃんは新生児室へ。
一瞬の出来事が終わると、まるで夢から覚めるように現実に戻ってきた。
まだ気は抜けない。
奥さんがまだ帰ってきていないのだから。

術後の処置をしているんだろうか。
麻酔が抜けるのを待っているのかも知れない。
再び長い30分を待つことになった。

昨年の秋頃だったか、『透明なゆりかご』というNHKの連続ドラマを観ていた。
その中で妊婦が出産直後に亡くなるという話があり、あまりにも臨場感がありすぎてテレビの前から動けなくなるということがあった。
そのイメージが強く残りすぎている。
どうしても悪い想像が払拭できない。
このときの1分1秒が本当に長かった。

赤ちゃんが戻ってきてから約40分後、ようやく奥さんも戻ってきた。
笑っている。
無事だった。
良かった。

先生の話では、術後の経過も順調で、輸血もしなかったとのこと。
ただ、陣痛のときから血圧が高めだったので、しっかり観察を続ける必要はあると。
当日や5日後くらいにグッと血圧が上がることもあるらしい。
それ以外は特に問題なし。
あとはゆっくり休んで回復するだけだ。

終わった。
ようやくすべてが終わった。

本当によく頑張ったね。
ありがとう。

病室へ向かう奥さんを見送って、僕たちは控室でまたしばらく待機。
ここでようやくいろんなものから解放されたような気がする。

準備が整い病室へ向かうと、奥さんは枕を外して横になっていた。
麻酔の影響で頭を上げることができないから、マットに直接頭を乗せる格好になっている。
さすがに疲れた様子だったが、顔は笑っていた。
それだけで充分。

ここまで見届けた両親とお義母さんは、ここで帰ることになった。
特にお義母さんは昨日の夜中からずっと付きっきりだ。
ほとんど寝てないだろうし、精神的な負担も大きかったはず。
ゆっくりと休んでほしい。

3人をエレベーターまで見送って、僕は再び病室へ。
ようやくゆっくり話ができる。

手術中はほとんど寝ていたとのこと。
それまでずっと痛みと戦い続けてきたんだから無理もない。
ただ、麻酔は効いているとはいえ、切ったり赤ちゃんを取り出したりする感覚は分かったそうだ。
終盤になるとちょっと痛みが出てきたので、麻酔を追加してもらったらしい。

念願の赤ちゃんが産まれてさぞ嬉しかろうと思ったけど、やや不満気というか、納得がいかない様子。
帝王切開になったことが残念そうだった。
「あれだけ痛みに耐えてきたのに、最後まで頑張れなかった」と。
そんなことはないと思うけどなぁ。

帝王切開は自然分娩とはまた別のリスクがある。
自然分娩で問題なく出産できるなら、もちろんその方が良い。
だけど、それでは問題があるから帝王切開に切り替えたというだけのこと。
ここまで頑張ったことも、帝王切開に切り替えたことも、正しい選択だった。

「陣痛が来なかったからなぁ」ということも言っていた。
「薬で無理矢理出そうとするのが、赤ちゃんは嫌だったんだろうなぁ」とか、「運動もしたし食事も気を付けたのになぁ」とも。
まるで陣痛が来なかったのは自分のせいであるかのような言い方。
奥さんは悪くないよ。
というか、誰も悪くない。

これについては、たぶん時間をかけるしかない。
いま僕が何を言っても、きっと奥さんは自分を緩やかに責め続ける。
まぁ僕も言い続けるけどね。やんわりと。
「日にち薬」で治るのを待つしかないかなぁ。

入院期間について後で先生に確認したら、順調に行けば5日で退院できるらしい。
長くても1日追加されるくらいで、一週間とか10日もかかることはないとのこと。
意外に早い。
お腹を切ったのに、そんなもんで退院できるのか……。

長かった戦いを振り返りながら、お互いに労をねぎらった。
本当に大変な2日間だった。
お疲れ様。
ありがとう。

うちの奥さんは大仕事をやってのけました。

ここからがスタートなんだろうけど、ひとまず先のことは考えないでおこう。
今日はゆっくり休んでね。

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