『嫁ハンをいたわってやりたい ダンナのための妊娠出産読本』という新書を読んだ。
著者は荻田和秀という産科医の先生。
「りんくう総合医療センター泉州広域母子医療センター長」という舌を噛みそうな肩書を持っているが、マンガ『コウノドリ』のモデルになった先生と言った方が分かりやすいだろう。
表紙に鴻鳥サクラ(『コウノドリ』の主人公)の絵があるのはそのためだ。
この本はタイトルの通り
嫁ハンをいたわってやりたいダンナ
が、
妊娠や出産に関する情報を得る
ためのもの。
割合としては、妊娠中に関する内容の方が多い。
結論から言うと、出産前に読みたかった!
それくらい、出産を控えるダンナにとって必要かつ有益な情報が満載なのだ。
嫁ハンが妊娠中、あるいは妊娠の予定があるダンナは、ぜひ読んでもらいたい。
いや、読むべきだ。
その理由を順に説明していこう。
軽く紹介するつもりが、書いてみたらかなりのボリュームになってしまった(^_^;)
それだけ内容が充実した本である、という風に理解してもらえたら嬉しい。
※今回は本書と同様、夫を「ダンナ」、妻を「嫁ハン」と表記する。
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『ダンナのための妊娠出産読本』を読むメリット
『ダンナのための妊娠出産読本』を読む最大のメリットは、事前に理論武装できること。
これに尽きる。
僕の実際の経験から言うと、妊娠してから出産までに調べないといけないことは山ほど出てくる。
聞いたことも想像したこともないことばかり。
生まれて初めて聞く言葉もたくさんある。
お酒は飲んじゃダメだよね?
コーヒーは?
え、お茶もダメなの?
とか、
切迫流産って何?
っていうか「切迫」ってどういう意味?
とか、
ジャンクなものばかり食べて大丈夫?
野菜くらい食べた方が……。
とか。
それを一つ一つ、しかも正確な情報だと確認できるまで徹底的に調べる必要があるのだ。
嫁ハンやお腹の中の子どもの健康と安全が最優先だから、決して手は抜けない。
かといって、ダラダラと時間をかけている余裕もない。
これは本当に骨が折れる作業だった。
その点、この本を読んでおけば一通りのことは学べる。
もちろん実際にその状況になれば、改めて調べ直す必要はあるのだけど。
それでも、まったく知らない状態から調べるのと、「これって何だったっけ?」と思いながら調べるのとでは大違いだ。
正解に辿り着くまでのスピードも、調べているときの精神的余裕も段違いだろう。
どういう可能性があるのか、その原因は何なのか、実際に起こったらどうしたらいいのか。
事前に知っておくことができれば、精神的な安定感が違うはずだ。
この本を読めば必要なことはすべて分かる、とまでは言わない。
妊娠や出産はそんな単純なものではないし、人それぞれ置かれている状況は異なる。
だけど(だから)、必要最低限のことは知っておいた方が良い。
妊娠・出産について無知だったダンナも、この本を読めばきっと心持ちは変わるはずだ。
「こんなに考えないといけないことがある」ということを事前に知るだけでも、充分に読む価値はあると思う。
『ダンナのための妊娠出産読本』は徹底的にダンナ目線
妊娠・出産に関する本やネット記事は数え切れないくらいあるけれど、そのほとんどは女性(妊婦)向けだ。
主役は女性なのだから、当たり前といえば当たり前なのだけど。
だから僕たちダンナは、妊娠・出産に関する情報を得ようとすると、女性向けに書かれた文章を「ダンナ目線」に脳内変換する必要がある。
文章で「○○しましょう」と書いてあれば、「嫁ハンが○○できるようにすれば良いんだな」という具合に。
それは別に普通のことだと思っていたし、特に疑問を感じることはなかった。
だけど、この『ダンナのための妊娠出産読本』は徹底してダンナ目線で書かれている。
「こうするように言ってください」
「こういうことはさせないように」
という風に、「嫁ハンに対してどうしたら良いか」というスタンスが徹底されている。
これは初めての感覚だった。
まるで真正面から自分に向けて言葉が投げかけられているような。
これまでは、どこか別の人に向けた言葉を覗き見しているような感覚だったけど。
自分に向けられた言葉だと思うと、やはり受け取る側の気持ちも違ってくるものだ。
著者の荻田先生の熱さによる効果もあるんだろうけど、「これはしっかり読んでしっかり考えないと」という気になる。
また、この本で繰り返し出てくるのが、
嫁ハンを孤独にしてはいけない
というフレーズ。
これは女性向けの文章には決して出てこない。
ダンナに向けた文章ならではのメッセージだ。
嫁ハンを孤独にしてはイカンと思うのですよ。
ダンナにも何かしらできることはあると思います。
足繁く病院に通う嫁ハンのためにできることが。
ゴミ出しでも買い出しでも毎日の会話でも、なんでもいいのです。赤ちゃんも生き延びようと頑張っています。
嫁ハンも支えようと頑張っています。
さあ、ダンナはどうする? 何ができる?
答えは自分で見つけてくださいね。『嫁ハンをいたわってやりたい ダンナのための妊娠出産読本』 P.100(早産に関する項)
「イクメン」という言葉が使われ始めて久しいけど、ダンナ向けの情報というのはまだまだ少ない。
そういう意味でも貴重な一冊だと思う。
『ダンナのための妊娠出産読本』から特に紹介したいこと 5 つ
『ダンナのための妊娠出産読本』に書かれている内容の中でも、特に紹介したいことを 5 つほどピックアップしてみよう。
本当はもっとたくさんあるのだけど……。
その全貌はぜひ自分の目で確かめてほしい。
風疹ワクチンの予防接種について
風疹については、かなり多くのスペースを割いて説明している。
「警告」と言っていいかも知れない。
最近も話題になっているけど、風疹ワクチンの予防接種が行われなかった「空白の世代」がある。
その世代にあたる 30 代〜 40 代に、風疹の免疫を持っていない人が多い。
ちょうど子どもをつくるメインの世代だ。
これがいかに危機的状況か、かなり強い口調で訴えている。
先天性風疹症候群の主な症状は、「目が見えない(白内障や緑内障、網膜症)」「耳が聞こえない(難聴)」「心臓に奇形が出る(先天性心疾患)」です。
これ以外にも糖尿病や肝機能異常、発育遅滞などの症状もあります。
妊娠初期にかかると発症すると言われていますが、妊娠後期だからといって安心できるわけではありません。
実際に妊娠後期の感染でも、同様の症状が起こる可能性があります。『嫁ハンをいたわってやりたい ダンナのための妊娠出産読本』 P.34
ここまで風疹が流行し、それに伴って先天性風疹症候群が一気に増えたと報告されるのは、先進国の中でも日本だけ。
2013 年の大流行時、アメリカは日本への渡航注意情報を発表したほど。
これは国辱モノですよ。『嫁ハンをいたわってやりたい ダンナのための妊娠出産読本』 P.34
妊娠中の嫁ハンはワクチンを打つことはできない。
だからこそ、せめてダンナはワクチンを打って免疫を付け、家庭内にウイルスを持ち込まないように細心の注意を払う必要がある。
嫁ハンと接する機会が最も多いのは、ダンナなのだから。
ダンナはウイルス感染の防波堤として、非常に重要なキーパーソンとも言えるのです。
『嫁ハンをいたわってやりたい ダンナのための妊娠出産読本』 P.36
僕も嫁ハンの妊娠が分かってから間もなく、風疹ワクチンを接種した。
免疫を持っていたとしてもワクチンは打てるし、何かしらの補助が出る自治体も多い。
風疹ワクチンの接種は、ダンナとして最低限の責務だと考えるべきだと思う。
ジャンクフードばかり食べても赤ちゃんは大丈夫
つわりの時期は特に、嫁ハンの食欲が落ちたり食べられるものが限られたりする。
なぜかジャンクなものを食べたくなる妊婦さんは多いようだ。
うちの嫁ハンも、例に漏れずジャンクフードばかりの時期があった。
特に多かったのは「からあげクン」。
出かけるたびにローソンに寄って、レジ横にある鶏の絵が描かれたパッケージを持って帰ったものだ。
他にもマクドナルドのポテトしか食べないときもあったし、スナック菓子やプリンだけで食事を済ませることも少なくなかった。
そうなると、心配になるのは栄養面。
嫁ハン自身はもちろんだけど、お腹の中の赤ちゃんにとっても影響があるんじゃないかと思ってしまう。
ところが、実際にはその心配は要らないそうだ。
赤ちゃんは「卵黄嚢」というものを持っています。
胎盤ができあがるまでは妊婦さんと赤ちゃんの栄養補給システムは別モノで、赤ちゃんはこの卵黄嚢に当座必要な栄養分をすでに持っているのです。
「お弁当箱」とよく言われているようですが、多少妊婦さんが食べられなくても、赤ちゃんは卵黄嚢から栄養分をとりますので、心配いりません。『嫁ハンをいたわってやりたい ダンナのための妊娠出産読本』 P.23
つわりの時期は遅くとも 16 週には終わるはず。
それくらいの期間ならば、ジャンクフードしか食べていなくても赤ちゃんには何の問題もない。
ただ、妊娠中の嫁ハンはビタミン B 群が「枯渇」というくらい不足している。
最悪の場合、「ウェルニッケ脳症」という命にかかわる脳炎を起こすこともあるらしい。
なので、ビタミン B 群の補給は嫁ハン自身のために必須。
とはいえ、つわりでしんどいときに「豚肉を食べろ!」と言うのは無茶な話。
そうなると、お薬やサプリメントで補給するのが現実的なようで。
(エナジードリンク系でも多少はビタミンの補給もできるけど、カフェインが多く含まれていることがネック)
うちの奥さんが妊娠中からずっと飲んでいるのは「Lara Republic(ララリパブリック)」という葉酸サプリ。
葉酸もビタミン B 群の一つだし、その他のビタミン B (B1、B6、B12)も含まれている。
正直なところ「妊産婦には葉酸が大事って言うし、飲まないよりは飲んだ方がいいか」くらいの感じで飲み始めたのだけど……。
ビタミン B 群がそんなに不足してる状態だったとは。
飲んどいて良かったかも(^_^;)
妊娠中に湿布はご法度
「妊娠中にビタミン A の過剰摂取は、赤ちゃんにとって危険(奇形が生じる可能性がある)」ということはよく知られている。
僕もかなり初期の段階で、そのことは知った。
だから「うなぎは出産後までおあずけやね〜」なんてことも話していたし。
ただ、湿布薬も同じくらい(あるいはビタミン A 以上に)危険だということを、この本を読んで初めて知った。
より正確に言うと、湿布薬に含まれている「解熱消炎鎮痛薬」が危険の正体。
特に妊娠後期は、この薬の成分が赤ちゃんの血管を収縮させたり、腎臓に負担をかけたりするらしい。
これはぜひ広く知れわたってほしいと思う。
少し長いけど、詳しい説明部分を引用する。
ぜひ参考にしてもらいたい。
おなかがかなり大きくなってくる妊娠後期には、妊婦さんも腰が痛くなってきます。
湿布薬だったら大丈夫かなと思いがちなのですが、それこそが危険。
用法用量を守ったとしても、経皮吸収で薬の成分が胎児に届く可能性もあります。実際に、妊娠後期の方がひどい腰痛で、背中一面に湿布を貼って、赤ちゃんが亡くなってしまったケースもあります。
これは本当に悔しいことで、妊婦さんにきちんとアナウンスをしなければいけないことだと痛感しました。湿布だけでなく、クリームやゲルなどの塗り薬も同様です。
肩こりや腰痛に使うような薬は使わないようにしてください。
また、解熱鎮痛薬の飲み薬もやめてください。これらは「NSAIDs」と分類される薬で、一般名(成分)でいえばアスピリン、アセチルサリチル酸、インドメタシン、ジクロフェナク、イブプロフェン、ロキソプロフェンなどです
『嫁ハンをいたわってやりたい ダンナのための妊娠出産読本』 P.59
大丈夫だと思っていても、どんな落とし穴があるか分からない。
湿布に限らず、どんな薬も自己判断で使うのはやめるべきだろう。
痛みなどがある場合は、まずは担当医にご相談を。
「ためし泣き」の時期は何をしてもダメ
赤ちゃんには、「わけもなく泣く」「とりあえず泣く」という時期があるらしい。
これを「ためし泣き」というそうだ。
「一緒に共同研究をしている先生が啓発している研究成果」ということだから、一般的ではないようだけど。
ただ、経験上そういう時期は確かにあったような気はする。
生後 1 〜 2 ヶ月頃に見られる行動で、1 日 5 時間以上も泣くことがあるとのこと。
特に理由もなく泣いているだけだから、あやし方が悪いとか、赤ちゃんに何か異常があるとか、そういうことではない。
「ただ泣いている」だけなのだ。
そう思えば、少しは気が楽にならないだろうか。
もちろん赤ちゃんは泣き続けているから、何もしないわけにはいかないのだけど。
それでも「泣き止まないのは自分のせいではない」と思えたら、良い意味での「諦め」がつく。
「赤ちゃんが泣き止まない」という目の前の状況を、素直に受け入れられやすくなるはずだ。
赤ちゃんが泣き止まないと、なぜか自分が悪いことをしているような気になってくる。
どこかに「正解」があるはずで、それを見つけられていないから赤ちゃんは泣き止まないのだ、という風に。
でも「ためし泣き」なのであれば、そもそも「正解」というものが存在しなくなる。
たったそれだけのことでも、精神的な余裕は大きく違ってくるだろう。
生物学的に男は育児に不向き?
「オキシトシン」というホルモン(脳内の神経伝達物質)がある。
別名「育児ホルモン」と呼ばれていて、「育児行動」や「社会性」に関係する働きをしているらしい。
このオキシトシンは、育児行動をするすべての脊椎動物が持っているとのこと。
オスとメスを比べると、このオキシトシンのレセプター(受容体:ホルモンを受け取るもの)が、メスに比べてオスの方が少ないのだそうだ。
これはほとんどの脊椎動物に共通して見られる特徴なのだという。
つまり、育児行動に関しては、メスに比べるとオスは不向きなのです。
愛着をもって子供を育てるオキシトシンが、メスに比べると作用しにくいわけですから、システムの上では子育てに向いていない。
たとえ、オキシトシンを大量に分泌しても、もともとレセプターが少ない(低い)ので、育児行動をとらないのでしょう。生物学的に言えば、そもそもオスは子育てに関して「先発完投」なんてことは期待されていないのです。
ダンナの脳には、嫁ハン同様の高い育児スキルはないわけですから。
でも、先発完投が無理でも、中継ぎやリリーフはできます。
つまり、最初からパーフェクトなイクメンを目指すのではなく、自分ができることを自分なりにやること。
それが求められているんだよ、という話です。『嫁ハンをいたわってやりたい ダンナのための妊娠出産読本』 P.134
もちろん「ダンナは嫁ハンに比べて育児に不向き」=「ダンナは育児しなくてもいい」ではない。
「嫁ハンのようにはできないけど、できることをできる範囲でやろう」ということだ。
僕自身もこれまでに、嫁ハンと同じようにできない自分が歯がゆかったり悔しかったりすることが何度もあった。
だけど、嫁ハンと同じようにできなくても、ダンナは落ち込む必要はないのだ。
そもそも不向きなのだから。
しかも「生物学的」という不可抗力によって。
それを育児しないことの言い訳に使うのは言語道断だけどね(#^ω^)
ただ、嫁ハンと同じであろうとすることを止める動機付けにはなる。
結局は「それぞれができることをやる」という結論になっちゃうんだろうなぁ。
嫁ハンだって完璧じゃないんだから、お互いに補い合っていければ良いなと思う。
まとめ
一度目や耳にした情報は、普段思い出さなくても頭のどこかには意外と残っているものだ。
ふと嫁ハンがこぼした言葉に引っ掛かりをおぼえて、念の為に検査したら異常が発見された……。
……なんてことが、ひょっとしたらあるかも知れない。
(そんなことないに越したことはないけど)
情報を身に付けるということは、そういう「ふと」したことに気付くための「アンテナ」を立てることでもあるだと思う。
この本を読むだけでも、きっとたくさんのアンテナを立てることができるはず。
ダンナは嫁ハンの一番近くに居るのだから、一番早くに気付いてあげたい。
どんな変化も見逃さないように、しっかりと正確な情報をインプットしておこう。